岡崎市旧本多忠次邸は、本多忠次氏が立地からインテリアまでこだわって建てた昭和初期の洋館です。東京都世田谷区から愛知県岡崎市に移築復原され、2012年に開館しました。しかし、現在の建物の姿からは、本多邸での日々の暮らしぶりや忠次氏の建物に対する思いがわかりにくくなっています。そこで本展では、AR(拡張現実)を用いて、かつてあったかもしれない本多邸の暮らしの風景を再現します。
2016年12月23日(金・祝) 9時30分から16時30分まで※終了しました
岡崎市旧本多忠次邸 展示室2(2階和室)
入場無料
※岡崎市旧本多忠次邸について詳しくはこちらへ
※2017年12月現在、アプリ「Aurasma」は「HP Reveal」に変更されています。基本的な操作は同じですので、以下適宜読み替えてください。
20歳未満 2人 / 20代 3人 / 30代 5人 / 40代 5人 / 60代 2人
旧本多邸の来館者が約50人、そのうち29人の方にAR本多邸ぐらしを見ていただきました。
休日ということもあってか、ご年配の方(おそらく来館者の中心となる層)以外にも、東公園に散策に来た若者や子供連れの姿も多く見かけました。
お住まいの地域はやはり岡崎市が圧倒的に多いです。ただし来館者の半分くらいは私が声をかけた知り合いなので、岡崎市が多いのも当然かなと思います。
来館の目的で「AR本多邸ぐらしを見に来た」が一番多いのも、知り合い票の影響が大きいと考えられます。
肝心の展覧会の内容ですが、なんと「おもしろかった」が100%!とても嬉しいです!アプリをインストールして設定する手間がかかったり、部屋によってはARがうまく出てこなかったりなど、鑑賞者の方に親切とはいえない部分も多かったのですが、それでもおもしろいと言っていただけたのはありがたいことです。
VR/ARの市場は今後10年で大きく成長するという予測もあるので、ARはどんどん身近な技術になっていくのではないでしょうか。そうすると、文化財の活用にARを使うのもお手軽になると思います。ただし、今はARという技術の物珍しさで楽しんでもらえている部分もあるのでしょうが、今後簡単に導入できるようになった場合には、何をどう見せたいのかを真剣に考えていかないと、ありふれたつまらない内容になる可能性もあるでしょう。難しいことですが、この部分で他と差別化できれば大きな強みになりそうです。
そして、今回一番の関心である「いくらならやってみますか?」という項目ですが、ここは厳しい結果が出ています。「無料でなければ体験しない」が約半数でした。確かに、無料で楽しめるアプリが世の中にはたくさんあるので、お金を払ってもらうには他とは違う特別な価値をつけていかないといけないのでしょう。ただでさえとっつきづらい文化財の分野なので、まずは無料で、間口を広く難しいことを考えなくても楽しめるものを提供して、もっと知りたいと思う方向けに付加価値をつけた特別な内容を提供するという手段が有効そうです。いわゆるフリーミアムですね。
例えば今回なら、AR自体は無料で楽しんでいただいて、参加費をとる特別プログラムとして閉館後に学芸員の解説つきで邸宅内を回ることができるとか、いっそ本多忠次氏のご家族の方にARの内容と比較しながらかつての生活の様子をお話しいただくとかでしょうか?あと、現在は一般市民は貸展示室としてしか旧本多邸を利用できないようですが、手芸や工作などの教室に使っても楽しいかもしれません。というのも、応援に駆けつけてくれた友人が受付で待機しながらレース編みをしていて、昭和レトロな洋館で手芸するなんてすごく優雅でいいなと思ったからです。
文化財に対する「もっと○○だったらいいのにな」という思いは、人それぞれですね。あまり興味がないという方から具体的にこうだったらいいという方まで、これといった正解はないように思います。あえて言うなら、もっといろいろな文化財で楽しめる工夫がほしい、といったところでしょうか。
西野嘉章『モバイルミュージアム 行動する博物館』の中で、博物館にいつ行っても何かしらおもしろいことをやっているという状況を作り出すこと、大型企画展ばかりに頼るのではなく、様々な、ものによってはニッチ企画を複数行って博物館の事業全体の価値を上げて行くことが必要であると述べられています。また、デービッド・アトキンソン『新・観光立国論』では、観光に必要なのは「あれもこれもできる」ことが指摘されています。この両者の指摘、すごく大事だと考えます。1つの文化財に対していろいろな楽しみ方ができるようなコンテンツを常に複数提供して、いつ訪れてもおもしろい状態にしておきます。内容は無料で体験できるものからお金をいただいて行う特別感のあるものまで幅広く用意、常に実験と検証を行い素早くコンテンツを改善していく。民間企業では当たり前のことかもしれないけれど、そうやってはじめて「稼ぐ文化財保存」ができるのではないでしょうか。
最後の自由記述は、私一人では気づかなかったことを教えていただけるので、丁寧にいろいろ書いてくださるみなさまに感謝です。例えば、スマホの電池の消耗なんて、全く考えていませんでした。貸出用端末で遊んでもらう運用にすればいいのでしょうが、できればご自身の端末で写真を撮ってSNSに投稿してもらいたいという思いがあります。「SNSに投稿するためのかわいい・楽しい・おもしろい・素敵な写真が撮影できる」ことは、現在、人が行動を起こす重要な動機になっていると考えるためです。また、AR出現のトリガーとなる写真・風景の認識しやすさも、今後検証が必要な課題です。
最後になりましたが、AR本多邸ぐらしにお越しいただいたみなさま、アンケートにご協力いただいたみなさま、本当にありがとうございました!
2016年12月25日 あねこ