AR本多邸ぐらし いきさつ その3

AR本多邸ぐらし」まであと10日を切りました!着々と進めてきた準備もいよいよ大詰めです。

AR本多邸ぐらしでは、ARでとりさんが出てくるだけではなく、少しですが解説文もついています。
難しい建築用語を使わず(そもそも私がわかりません。笑)、各部屋をどのように使っていたのかに重点をおいて部屋のよさを伝えられるよう、一から自分で解説を書きました。
ディスクリプションと呼ばれる、主に美術作品について記述するときの方法に依って一応書いていますが、久しぶりに書くとなかなかしんどいですね。何年ぶりかの作業なので、前々から気になっていたシルヴァン・バーネット著 竹内順一訳『美術を書く』を入手、半分くらいまで読んでから臨みました。
建築の専門家からするとおかしなところもあるかもしれませんが、改めて旧本多邸について書くことで、なんとなく「いいよね」で済ませていた感覚を見つめ直す機会になりました。来館者の方それぞれにいろんな考えがあって、こういう見方・感じ方もあっていいんだということを示す1つの例になればと思います。

前回のいきさつでは、行政ではなく民間が行動することの重要性、稼ぐ文化財保存について書きました。 → AR本多邸ぐらし いきさつ その2
今回は、ARという手段に至った経緯を記していきたいと思います。

行政に頼らず自分にできることを、と考えたとき、様々な課題がありますが、資金は大きな問題の一つだと思います。
まとまった金額を投資できないので、当時の生活雑貨の複製品を作るとか人形を置いて生活ぶりを再現するといった経費がかかることはできません。そしてこういったものを置くと、後々の維持管理にお金も手間もかかって大変です。
また、旧本多邸は裕福だったとはいえ個人の邸宅なので、各部屋もそこまで広くありません。そんな中にかさばるものを置くのは、建物や展示品の破損を防ぐためにも来館者の安全のためにもよくないと考えます。

維持管理の手間が少なく、なるべく邪魔にならない小さいもの。さらに、難しいことを言わなくても本多邸での暮らしの様子がわかるもの。間違えてもやり直しがきき、来館者の動向に合わせてすぐに修正ができるもの。これらのことを考えて行きついたのがAR(拡張現実)でした。
ARって何?という方もみえると思いますが、大雑把にいえば、「現実の空間に別のものを追加して表示できる技術」です。今年の大流行といえば「ポケモンGO」ですが、これもARを用いて、現実の空間のにポケモンを追加して表示しています。
ARとよく似た、最近そこかしこで話題の技術でVR(仮想現実)があります。VRもざっくりいえば仮想の作られた空間にいるかのような体験ができる技術なので、あくまで現実を元にしているARとは異なります。
観光の分野ではVRの活用を、という話も盛り上がっているようですが、文化財の活用に関していえば、私はARの方が適していると思います。
せっかく目の前に本物の文化財があるのだから、本物を見なければもったいないと考えるからです。
もちろんVRがだめということではなくて、例えば遠く離れた土地でも観光PRの手段や、普段は決して入ることのできない場所、例えば古墳の中とかにいるかのような体験ではVRの方が有利です。
でも、目の前に本物があるのなら、そこに少しの情報を追加するだけのARの方が、文化財をより理解するためのきっかけになるはずです。

AR本多邸ぐらしは展覧会ですが、文化財の活用にARはどれだけ効果があるのか?という実験でもあります。
現在、文化財をより理解するための手助けになるものとして、特に規模が小さいところほどガイドボランティア一辺倒な傾向があります。しかし、文化財を楽しむためのいろいろな手段があって、自分の好きなものを選べるほど選択肢があれば来館者も楽しいですし、また稼ぐための手段を複数用意できます。そして、ARにはその選択肢になる可能性があると思います。